SmartNewsに「オピニオンチャンネル」が登場。アルゴリズムは、感動の涙を流すのだろうか

スマートフォン向けに最新のニュースをキュレーションするアプリ SmartNewsから、より多様な記事をピックアップして届けるカテゴリ「オピニオンチャンネル」が登場しました。このブログLifehacking.jpもAMN reviewsの取り組みの一環としてクローリングの対象サイトに加えていただいています。

オピニオンは、大手メディアであるか、個人ブログであるかに関係なく、オピニオン的な記事を迅速に拾うことを目的としています。硬い内容もあれば、柔らかいコラムのようなものも含まれるみたいですし、時事問題から家庭の話題まで、幅広いテーマが対象となっているそうです。

ブログの書き手として気になるのは、「どのようにしたらSmartNewsに掲載されるのだろうか?」という点だと思いますが、この質問をつきつめて考えると、面白い議論につながります。

SmartNewsはチャンネルに掲載するニュースを複雑なアルゴリズムで選定していますが、そのアルゴリズムは何をみて、どういう情報を広めることに最適化されているのでしょうか? SmartNewsを開くとき、私たちは何に身を委ねているのでしょうか?### オピニオンはどうやって選ばれている?

まず断っておかないといけないのは、以下はSmartNewsのアルゴリズムについてまったく知らずに書いているという点です。しかしアルゴリズムの内部をしらなくても、さまざまな予想を立てることはできます。

SmartNewsがユーザーにとって価値のある情報を届けようと思った場合、**「記事のクオリティ」「タイミング」**が重要です。「記事のクオリティ」はまさに面白いか面白くないか、重要な話題を含んでいるかいないかですが、主観的な判断が入りますから万人に同じ指標は使えませんし、そもそもアルゴリズムがどのようにして内容の解釈なしに「面白い」「重要」というスコアを決めるのかは興味深いテーマです。

一方、「タイミング」も面白い問題を含んでいます。話題になっている記事を紹介するのはソーシャルなどの動きをみることであるていど予想できます。

しかし「これは話題になっている」と決めるのがあまり遅すぎても「もうその話題はみたよ」とSmartNewsのユーザー思ってしまう可能性があります。一方、はやすぎればそれはそれだけ多くの誤差を含んでしまいますので悩ましいわけです。

今回開始したオピニオンについては、IT関係や、スポーツ・芸能などといったように特定のテーマではありませんのでさらに面白いことになっています。

たとえばLifehacking.jpにはコラム的な文章以外にもアプリやサービスの紹介も含まれていますが、SmartNewsのアルゴリズムはどれがオピニオンに該当してどれが該当しないか理解しているのでしょうか? この記事のようにIT関連のニュースを起点として論説を書いている場合もあるのですから、判別をしているとしたらなかなかのものです。

それとも対象となっている媒体の記事はすべて対象で、重要性でふるいにかけられてから、あまりテーマにそっているか考えずにオピニオンカテゴリに載せているのでしょうか? あまりに違う場合は人間が介入するといった調整は多少あるのでしょうけど、そのさじ加減が気になります。

SmartNewsにとっての「よい記事」と読者にとっての「よい記事」

Opinion

もっとつきつめると、さらに考えさせられる話題がでてきます。**そもそもSmartNewsが選び出す記事は「誰にとって面白い」**のでしょうか?

このあたりは競合しているサービスのGunosyやNuzzelと比較すると顕著です。これらのサービスの場合は、「面白い」といっているのは私のソーシャルメディア上の友人たちです。私の友人が面白いといってるなら、それは私自身にも面白いかもしれないという近似がここにはあります。

しかし、しばらく使ってみて意外だったのは、Gunosyのようなサービスの精度がいっこうに高くならない点でした。毎日のように届く興味のないニュース、友人のだれもシェアしていないような気分の悪くなる記事に、ほとんどこれらのサービスをあきらめてしまいました。

SmartNewsは逆の戦略をとっています。カテゴリに載っている記事は全ユーザー共通で、ユーザーはカテゴリ単位でのカスタマイズを行います。

すると、このカテゴリに含まれる記事のクオリティはどんなパラメータによって判断されているのでしょうか?

実際的には、話題になってるオピニオンをある閾値の幅で硬軟取り合わせて表示し、面白いかどうかの判断基準の精度はクリック率などから練り上げてゆくといったことができます。しかしこれだって、いままで現れたことのない面白いさがネット上に登場した時にアルゴリズムの網の目からハズレてしまうかもしれません。

こんな手探りの推論でも、ニュースチャンネルとちがってオピニオンチャンネルがどれだけ複雑で面白いことをしようとしているかが想像できます。

アルゴリズムが届ける感動

この記事を書いている最中に、ちょうどSmartNewsのエンジニアさんのインタビュー記事が公開されていて、興味深く読んでいました。特に以下のくだりは、SmartNewsの哲学が読み取れます。

このミッションを達成するためには、そもそも「良質な情報」とは何か、その定義から始めなければなりません。これは難しい問題です。例えば保守派の人にとって、リベラルな主張は「質が低い」と感じるかもしれません。でも、その人に対してリベラルな立場に基づく情報が届かなければ、情報の「たこつぼ化」が発生してしまいます。

こうした問題を解く役割を果たすのは、人手の編集による取捨選択ではなく、アルゴリズムの力だと考えています。したがって、アルゴリズムを作るエンジニアには、強い倫理観が求められます。SmartNewsでは、エンジニアが社員の50%を超えていますが、メディアやジャーナリズムに関わってきたメンバーも多く、様々な視点から「良質な情報とは何か」を考え続けています。

「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける。エンジニアとして社会で表現したいこと」 | another life

そのむかし、Googleが登場する前のYahoo!は人力でインターネットの電話帳が作られていました。まだ情報が少なかった時代は、人が判断するほうがクオリティを担保できたからです。

しかし時代は進み、記事のよしあしを、人間ではなくアルゴリズムが第一のフィルターとして選別する時代になったわけです。

そのこと自体は素晴らしいと思いつつも、少しこわい気持ちもしています。そうしてSmartNews上で出会う記事が、あらかじめアルゴリズムによって選別されている時、アルゴリズムははたして私たちの感動を先取りしているのでしょうか? 除外されたもののなかに読むべきものはなかったと言えるのでしょうか?

機械仕掛けの神、デウス・エクス・マキナが私たちの感動や喜びも選ぶことの倫理的な意味は?

考え過ぎだというひともいるかもしれませんが、大統領候補について検索した時の票一順番だけで選挙結果に有意な影響が生じるという研究結果もあります。

そして書き手としての問題もああります。SmartNewsに限らず、Google検索や、キュレーションサービスを意識せずに書くことはしだいに難しくなるでしょう。でも、それが行き過ぎたとき、書き手と読者との関係には非可逆的なヒビが入ってしまうのではないでしょうか?

考えさせられるオピニオン、怒りをかき立てられるオピニオン、ちょっとほっとするオピニオン、感動で涙を流すオピニオン。SmartNewsのアルゴリズムはどんなオピニオンを選び出してゆくのか。

そこにこうした面白い話題が潜んでいることを念頭におきつつ、アルゴリズムの最前線を体験できるのもmartNewsのオピニオンカテゴリだと思いますので、ユーザーのかたはぜひ登録してみてください。

あとSmartNewsのアルゴリズムについて、企業秘密みたいなところまで知る必要はないのですが、なにを求めていて、なにを除外しているのかという哲学みたいなはなしもぜひ機会があったらうかがってみたいですね。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。