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「ハマるしかけ」で「艦隊これくしょん」の中毒性を読み解く

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ちょっと、いつもと違った趣向で書いてみましょう。ゲームの話、そう、去年からある方面ではたいへん話題の「艦隊これくしょん」です。

このゲーム、モバイル向けにはなっていませんし、ソーシャルゲームというわけでもありませんし、なぜ人気なのかは謎な部分もあります。

この話はすでに「ライフハックLiveshow」で3回にわたって触れてきました。みたいもん!のいしたにまさきさん(@masakiishitani)、おおつねまさふみさん(@otsune)をお迎えして放送した直近の回はこちら。

擬人化された旧日本海軍の艦艇「艦娘」を率いて双六のような仕組みで「敵」と戦う、とまあやっていない人にはなんのことかさっぱりわからない話だと思いますが、やりこんでいる人は膨大な時間をこのゲームに注ぎ込んでいるほどです。もはや中毒性、常習性といった言葉をつかってもいいほどに。

ところで先月まで続いていました日経ビジネスアソシエの洋書先取り連載で紹介した “Hooked” が「ハマるしかけ」というタイトルで邦訳され、その出版記念イベントに先週参加しました。

著者のニール・イアール氏のプレゼンで、ひとを中毒的にまでとりこにするサービスがもっている特徴を説明する「Hookedモデル」についても詳しく知ることができましたので、どうせなら「艦隊これくしょん」の中毒性をこのモデルに即してみてみましょう。

Hooked モデルと、4つの要素から成るループ

Hooked というのは、鈎のことです。「I’m hooked」という場合、まるで鉤爪で引っ張られているみたいに、そこから離れられない、夢中であるという意味になります。

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ニール・イアール氏の「Hooked」モデルは、ツイッターや Pinterest などといったサービスがもっている常習性を説明する、常識的なまでに簡単そうでいて、実のところ深みのあるフレームワークです。

それは4つの要素からなるフィードバックのループをもっています。最初に来るのが「trigger」。そのサービスを使うことで満たされる感情の引き金です。

2つ目は「action」、3つ目は「reward」、そして4つ目は「investment」となっています。4つ目が、次の「trigger」を準備するので、この4つはぐるぐると回る常習性、習慣性のループをなしています。

ではそれぞれを、このゲームに則してみてみます。

Trigger:痛痒感が、習慣性のきっかけ

iPhone のツイッターアプリなどのように、画面を下にびょーんと引っ張ると新しい投稿が読み込まれる仕組みがありますね。

あの仕組みで画面を引っ張るその瞬間に私たちが感じているもの。メールの受信ボタンを押す際に感じているもの。もう一日で数十回目にSNSをチェックするためにポケットからスマートフォンを取り出す瞬間に感じている感情。それが「Trigger」です。

Triggerは、痛痒感とでもいうべき、ユーザーがアクションを起こしてなんとかしたいと思う感情のことを指しています。たとえば「なんとなくの孤独感」を癒やすためにFacebookへ、新しい情報があるかもしれないという渇望感を満たすためにTwitterへ、といった具合に常習性をもつサービスはユーザーの感情に訴えます。正確には、ユーザーの欠乏感を誘い出しているのです。

「艦これ」の場合、それはなんでしょうか? 実はこれが少し複雑で、残りの3つを見てみないと具体性が出てきませんのでここでは先に進みましょう。

Action:痒いから「ひっかく」

ユーザーの感情に訴えることが成功したら、それを何らかのアクションで満たしてあげます。先ほどの「画面を下に引き伸ばす」という動作がそうですし、Faceboook の場合は「いいね」ボタンを押すなどの動作があり得ます。

「Trigger」で起こった感情の行き場が UI として提供されているというのが「Hookedモデル」でいうところの「Action」です。それはサイトによって違いますし、Facebook と同じような「いいね」ボタンを用意したからといって同じ感情を満たしてあげられるとは限りません。

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「艦これ」ではどんな「Action」があるでしょうか? それはゲームに没頭するという意味で「出撃」を繰り返すこと、新しい装備や「艦娘」を手に入れるために建造や開発を繰り返すこと、あるいは任務や遠征といった、ゲーム内に用意されたハードルを飛び越えることに他なりません。

実によくできているなと思うのは、「出撃」もゲームの海域を進めるために行なうだけでなく、1. あえてレアなキャラクターを手に入れるために特定の場所で足踏みする、2. レベルアップのために特定の海域を繰り返す、3. 任務をクリアし経験値も手に入れるために行なうクルージングなど、やっていることは同じなのに目的に応じて選択肢があるという点です。

選択肢はプレイヤー側の意気込みによっても変わります。真面目に進めている時、ちょっと時間が空いた時、単純作業をしているときなど、プレイヤー側の気持ちに応じてそれなりに何がしかやることがあるという間口が「艦これ」にはあります。

単純に「面白いからプレイする」では説明がつかないのが「Action」の面白いところなのです。生まれた感情を満たすためのボタンが適切に用意されているといったほうがあたっているでしょう。

Reward:ランダムな報酬

ボタンを押すとエサがでるというケージに鳩をいれた場合の実験については、もういろいろな場所で聞いたことがあるかと思います。学習は報酬とセットだと身につくというあれですね。

でもここで、ボタンを押した結果、エサがランダムにしかでないようにしたらどうなるでしょうか? 結果は、鳩はむしろより多くの回数ボタンを押すようになります。報酬がランダムになったことで、より行動が促されているのです。

ツイッターの画面をリロードしても、面白いツイートがあるとは限りません。しかし10回ほど繰り返していると、「わ、これは面白い!」というつぶやきが飛び込んでくることがあります。

このランダムさが、かえって繰り返しツイッターをリロードする動機付けになっていて、「◯ 件の新しい投稿があります」というリアルタイムに表示される文字列は、「次は面白いツイートがあるかも」という期待とともにそれを開くアクションへと私たちを促します。報酬は、ランダムな方がよりハマるのです。

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ランダムな報酬というのは、「艦これ」そのものといっていいでしょう。せっかく出撃しても目的のボスまでいけるかはランダムに動く羅針盤次第。勝利してもレアな「艦娘」が手に入るかはやはりランダムです。

ただ、まったくランダムではないのですから、実によくできているわけです。「駆逐艦をいれたらボスにいけた」「いや、別の法則があるらしい」「あの海域だとあのキャラがドロップできた」「このレシピで建造ができた」という具合に、ランダムさがある程度プレイヤー側でコントロールできる(あるいはできるという幻想が用意されている)からこそ、さらに時間と労力を投資してしまうのです。

一方、報酬にはソーシャルな面もあります。「このレアな艦娘を手に入れた」「このイベント海域を突破した」といった Facebook / ツイッター上での書き込みを読むと、「自分もやってみよう」というトリガーが発生しますし、それが満たされると自分自身がそうした書き込みによって他者のトリガーを準備することだってあります。

「艦これ」はそれ自体がソーシャルなゲームではないのに、プレイヤー同士のいわば「共通言語」として会話が SNS に丸投げされているという特徴があります。自分のプレイを進めたいからウェブで情報をみる、それが新しいトリガーになるというループです。

Investment:次のトリガーを準備する

「Hookedモデル」の最後のピースは、ユーザーが次の一巡のために自分で行なう、ちょっとした「宿題」のような作業です。

たとえば Facebook でコメントを行うことはこれに当たります。ユーザーがコメントを書く、すると次に返信が来た際に通知が表示されます。「あ、返事がある!」(トリガー)クリックする(アクション)「なるほどそうきたか」(報酬)「ではこう返事しよう」(investment)という具合に、ユーザーの側でちょっと何かの作業をおこなうことで、さらに次のループに誘い込むという構造があります。

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「艦これ」においては、報酬が次のアクションを多彩に生み出すのですから、これはいうまでもありません。

新しい艦を手に入れた? じゃあ改造できるまでレベル上げないと。レベルが上った? 改二が実装されたのでそこまで行こう。任務をクリアした? 次の任務、あるいは「任務をすべてこなす」というハードルを跳んでみよう。

ライフハックLiveshow #99 では、もうほとんどやることがないのではないかと思うほどにやりこんでいるおおつねさんの口から、「俺なんて、やれることのすべてに対してまだ20%くらい」という衝撃的なコメントがあったのですが、まさにこの「やり尽くし感」が感じられないほどのフィールドを用意しておくことが、成功するサービスの秘訣なのかもしれません。

同時に、旧聯合艦隊という、みんなが知識として多少なりとも知っていた、でもそこまでは知らなかったという「共通言語」が与えられたことで、それについてより知ること、より高いレベルで会話に参加することが investment になっているという面も見逃せません。

ふたたび Trigger へ

そしてループは最初に戻ります。つぶやきをみて楽しかった人はもっとつぶやきを、Facebook を見るのが楽しかった人はよりその場所を求めるというフィードバックがかかります。

それはツイッターやFacebook、Google、Pinterest、スマートフォンといったものが、それぞれ情報欲、孤独感、全能感、倦怠感などといった感情を満たす設計になっているからです。

では「艦これ」は? なにを満たしているのでしょうか? 実はそれがよくわかりません。

多くの人がプレイしているので、自分もそこに参入することで得られる孤独感への癒やし、共通する話題で盛り上がることで得られる満足感、レアなキャラクターを手に入れることで得られるギャンブルで大きく当てた時のような高揚感。

そのどれもが当たっているのですが、じゃあ「艦これ」だけに特徴的でここまで広まった原因といえるものがあるのかというと難しい気がします。

あるいは、ちょうどネットのユーザーが次にみんなで盛り上がれる「共通の話題」を求めていたタイミングで、壮大な海図が広げられたことによる奇跡のような偶然なのかもしれません。

ふだんあまりゲームをしない私も、そのトリガーの源が知りたくて、ついついやってしまっています。ここには、まだ何か、今という時代を知るためのキーワードが隠されている気がします。

というわけでたいへん長くなったのですが、ニール・イアール氏の「Hooked」邦題「ハマるしかけ」は、簡単なようでいて実はテクノロジーと私たちの感情との相互作用を簡単なモデルで説明する面白い本ですので、ぜひ手にとって読んでいただければと思います。

本ではこうした中毒性のあるサービスを作ることの倫理性や、この「Hookedモデル」だけでは説明できない領域についても触れられていますので、ウェブサービスなどを設計する人には必読だと思います。

さて、私は提督業務に戻らねば。次の作戦に備えなくてはいけませんから。


著者について

堀 E. 正岳

「人生を変える小さな習慣」をテーマとしたブログ、Lifehacking.jp 管理人として、仕事術、ライフハック、テクノロジー、文具、ソーシャルメディアなどについて執筆中。2011年アルファブロガー・アワード受賞。Evernote ライフスタイルアンバサダー。ScanSnapアンバサダー。この他のブログに、ライフ×メモ 、Climate+を運営しています。

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