クリエイティブの源、メンタルマップをどこにおくか

Field

クリエイティブであるにはどうすればいいのか、クリエイティブな人がしている習慣、などといった記事を目にする通り、「クリエイティビティ」という言葉には抗しがたい魅力があるようです。

細い衛星回線でツイッターのタイムラインをみていたところ、次のような記事がやってきて目に止まりました。「机の上が汚い方がクリエイティブ」という内容で以下のような実験がされたようです。

1つの実験では、あるグループは、キチンと整頓してあるオフィスに、もう一方のグループには雑然と散らかったオフィスに座ってもらい、卓球で使われる「ピンポン玉の他の使い道」についてアイデアを出してもらいました。 両グループとも、アイデアの数は同じだったそうですが、違いはその内容に。汚いオフィスに座っていたグループの方が、そのアイデアは面白く、斬新なものが多かったそうです。

「デスクが散らかっている人はクリエイティブ」 ―米研究結果

現論文にあたらないと詳しい点はわからないのですが、ここだけを抜き取って見るなら「周囲にヒントが散らばっている人はアイディアが出せた」というだけの結果のようにみえます。

この「雑然としたオフィス」は本人のものだったのでしょうか? でなければ、めずらしい環境におかれることで関連性でさまざまなのことが思いついただけのように思えますので、まさかそんなことはないと思いたいのですが…。

逆にふだんから机の上が乱雑な人は、その環境が何の意外性ももたないわけで、そこから新しい発想が出てくるかには疑問があります。

否、否! そもそもこの話題は、そんなつまらない「机のうえの乱雑さ」とは何の関係もなく、だから机の汚い人は胸をはっていいとか、そんなことともまるで関係がないのではないかと思います。

むしろそれは、メンタルマップの版図がどこにあるかという問題なのではないでしょうか。### 精神の翼を広げる場所

私はブログのネタに困ったとき、自宅の椅子を回して書斎の本のタイトルの上に目を泳がせることがよくあります。あるいは昔のモレスキンを持ちだして、あてもなくページをめくることも。

あるいはEvernoteのてきとうな場所を開いて偶然目にしたノートを読み込んでみたりと、まったく関係のない洋書をひらいてランダムに読み始めるということもあり、その手段はそのつど違います。

Creativeness

しかし共通しているのは、「いまそこにいる自分」ではないものを目の前に広げて、窮屈な自分の考えに幅をもたせること、ただそれだけです。

私はこの書斎の本をすべて読んでいるわけではありません。とんでもない。2割も内容は覚えてないのではないでしょうか。書斎は私の無知のフィールドなのです。

モレスキンのなかに書き込んだことも、書いた時から随分時間がたっていて私の考え方や受け止め方も変わっています。時間が書いた本人を書かれたものから引き離してしまったのです。モレスキンは、もはや私ではない私と出会うフィールドなのです。

同じように、知らない本を開くこと、新しい場所にいくこと、頭のなかで埒もない想像をすること、すべてが私ではない何かと出会うフィールドです。

その理解できていない、知らない、感じられていない何かに向かって手を伸ばしてゆく過程を指して、このフィールドに地図を描くように思えますのでメンタルマップという言葉を使ってみました。

理解できない、知らない、感じたことのない世界

思うに、クリエイティブさというのは筋力のように目に見えて何かを動かす力ではなくて、自分の了見が狭い世界から踏み出して、周囲との関連性のなかで目に見える言葉なり、作品なりに落としこむ能力なのではないでしょうか。

だから、クリエイティブさは求めて得られるようなものではないと思いますが、それでも少し発想を柔らかくしたいなら、自分に理解できていないこと、知らないこと、感じられていないことに囲まれる、それだけでも十分なのではないかと思います。

理解できた知識は死んで化石になるだけですし、知っていることはただ知っているだけに過ぎませんし、これはこうだと感じ方を断ずるところに新しい感動はないわけですから。

ただ、これは思った以上に難しい話で、たとえ外国に来ていても周囲のできごとや風景を解釈するための言葉や概念をもたない場合にそれを受け止めきれない場合もあって、なかなかにこのメンタルマップの版図を広げるのは大変です。

だから最初の問題に戻るわけです。

あなたにとって「外の世界」はどこにありますか? 扉をあければすぐにアクセスできる、ぞくぞくするような異質な、新しい体験が用意されているフィールドはどこにありますか? という。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。