誰もが読むべき心の処方箋「『うつ』とよりそう仕事術」酒井一太(Nanaブックス)

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本書は、誰もが読むべき心の処方箋です。

いつもオフ会などで親しくさせていただいているブログ Find the meaning of my life の酒井一太さん(@kazumoto)の「『うつ』とよりそう仕事術」を、ようやく精読させていただきました。そして私はいま、とても感動しています。

「うつ」のために過去に二回の休職と復職を経てきた @kazumoto さんは、この心身を衰弱させて死を願うまでに追い詰める病気との上手な寄り添いかたと、仕事をする生活への戻る実践的なポイントをこの本の中で書いています。

しかし、この本は決してうつ病の人だけに向けたものではありません。形の上では病気と、そこからの回復の過程を扱っていますが、ここには様々な仕事上のストレスや困難を賢く切り抜けるための知恵がつまっています。

本書は小手先のテクニックではなく「いかにして心を守るか」という部分に力を注いだ結果、類書にはほとんどみられることのない深みを獲得しているのです。### 小さな不安の種をつみとる

うつ病がもたらす極度の不安や、それにともなって発生する身体症状は、仕事や、生活をする力を失わせます。本書でも最も衝撃だったのは、うつ病の結果、「掃除機をかける」「衣類をたたむ」「食事を料理する」といった手順もどのようにすればいいのかわからなくなってしまったという体験談のくだりです。

たとえば、「掃除機をかける」という家事の手順がわかりません。掃除機を収納場所から出して、電源コードを引っ張って、コンセントに挿し込んで、電源ボタンをオンにして、部屋の隅から掃除機をかけていくといった、普通の人であれば誰しも何も考えなくてといはずの、日常生活ができないのです。

この状況に対抗するために、@kazumoto さんは普通のひとならまだるっこしいほどの Todo リストを作って丁寧に行っていきます。

また、生活や仕事をするなかで必然的に発生する小さな不安に対して、あらかじめ手を打っておくこともしています。たとえば手が届く範囲の整理整頓をすること、自分向けの仕事のマニュアルを作っておくこと、怒りの感情や不安の感情がでてきた際にとれる行動などです。

ここには病気をもたずに普通に生活している人にとっても有効なテクニックが多く含まれています。心が疲れ、病んでいくのを未然に防げれば、私たちは100%の力で仕事をすることができるのですから。

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すべてが深くなったライフハックの本

もうひとつ、本書を読んで驚いたのが、扱われているすべてのトピックスが必ずしも「新規性」があるわけではないのに、すべてが深められているという点です。

たとえば GTD の紹介の節があります。しかし GTD がうつ病を含む、心のストレスを軽くして如何にストレスフリーを生み出すかという部分についてはなかなか類書でも触れません。本書ではその理由についても踏み込んで解説をおこなっています。

あるいは、整理整頓で身の回りのものがなくなる不安を回避したり、睡眠のログをとって24時間のサイクルを改善させるといったように、すでに多くの本で扱われている内容が紹介されています。しかしその解説は、「いかにして心を守るか」という指向性で深められています。

いかに心がへこたれているときでも、創意と工夫で乗り越えられることがたくさんあると、本書は教えてくれます。

考えてみれば、私がこのブログでこれまで伝えてきたこと、これから伝えたいと思っていることが本書にはこれでもかとつまっています。仕事のスーパーマンであるよりも、「小さな工夫を習慣化すること」。不安が先に立つかもしれないけどきっとできることはあるはずだということ、などです。

いまは健康だと思っていても、かならずストレスや逆境で手も足も出ないという気分になる日はやってきます。そんなとき、@kazumoto さんが持ち帰ってきてくださった貴重な心の処方箋が、あなたを守ってくれるはずです。

「うつ」とよりそう仕事術 (Nanaブックス)

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。