新連載: Googleで何もかも調べられる時代に「知的」ってどういうこと?

Intellectual life

私の肩書きは「科学者」で、学歴の肩書きには「博士号」がついてまわります。

そう、資格だけで語るなら私は「知識人」といってもいいのかもしれませんし、それが無理でも少なくとも「知的な職業」についていると言ってもよさそうです。

それでも私自身は、エドワード・サイードの「知識人とは何か 」や、渡部昇一さんの「知的生活の方法 」を読みふけった頃から「知的になりたいなあ」と憧れるばかりの人間で、すこしも自分が知的だという自信がもてません。せいぜい、頭でっかちで理屈っぽいというくらいのものでしょうか。

「もっと知識がほしい」と行き当たりばったりの乱読をしていた時期もありましたし、「知的に見られたい」と思って読みかじった知識を衒う悪癖はいまも抜け切れたとはいえません。でも「知的なもの」に憧れる気持ちはいまも高校生の頃と変わっていないつもりです。

一方、「知的なもの」の意味も今ではちょっと前に比べて多少変化したように思えます。ちょっと検索すればどんな情報でもみつかる時代に、「知的である」ということの意味って何なのでしょう?

私は一介の浅学の人間にしかすぎませんが、こうした疑問に自分の体験で答えをだしてゆく連載を書いてみたいと思います。知識で人を煙に巻くのではなくて、知的に人生をハッピーにするためにできることについてのノウハウを調べつつまとめられればと思います。

連載第一回として、まずは導きの糸となる二つの疑問についてまとめておきましょう。### Googleで何もかも調べられる時代に「知的」ってどういうこと?

有名な冗談ですが、「銀河ヒッチハイクガイド」の中にはとてつもないコンピュータに「人生、宇宙、そしてすべての疑問に対する答え」を計算させるという逸話があります。

750万年かけてその答えを計算した結果、コンピュータは「答えは42」とそっけなく答えて、設計者たちを大いに狼狽させます。「何が42なんだ!」と聞かれたコンピュータは「究極の答えは42だけれども、そもそもその答えを導く究極の質問を計算するにはもっと強力なコンピュータが必要だよ」とこともなげに言います。

この逸話は SF ファンの間では有名なので、 Google に “answer to life the universe and everything” と打ち込むと “42” と答えが返ってくるほどですが、これはもちろん大いなる皮肉を含んでいるわけです。

Google で調べられるのはもちろんある検索ワードに対する答えなのですが、そもそも「疑問」が明確になっていなければ答えを出すことはできません。つまり**「答え」よりも「疑問」が優位で、どんな疑問をもつかが、どんな答えに行き着くかを(決定論的にとはいいませんが)決めます。**

では、一見さまざまな答えがありふれていて、すべてに手がつけられているような気がするこの世界で、どんな疑問をもてばいいのでしょう?

これが本連載の一つの軸です。多分答えは、「好奇心」へとつながってゆくのでしょうけど、まずは先走らずに筆を進めるとしましょう。

「知的」って何さ?それは何かの役に立つの?

もう一つの導きの疑問はこちらです。そもそも情報がこれほど安いものになった時代に、そしてあらゆる解釈や新しい考えがソーシャルウェブから生み出されている時代に、「知的」ってそもそも何だろう? それってなんの役に立つの? 美味しいのそれ?、という疑問です。

ひどく乱暴にいうと、本をよく読んでいることは知的であることを保証しませんし、情報カードを10000枚活用していることも知的であることを保証しませんし、知的にみえることを語っていることも知的であることを保証しませんし(ぎくり)、仮に知的であっても、鼻持ちならなくて何もクリエイトしていないなら、そんな人を相手にする必要はあるのだろうか? というわけです。

「鼻持ちならない人間にならないための知的生活」ではあまりに後ろ向きですので、「知的なもの」で日常にスパイスを加える方法について紹介していこうと思います。

「知」という漢字がゲシュタルト崩壊してきた頃合いだと思いますが、ここでいう「知的なもの」というのは「情報」ではありません。

名作の本を読んで人格を陶冶されるのと、漫画ワンピースを読んで人生変わったよー、の二つの間に共通している、よりよいものへの憧れこそが「知的生活」の基本なのではないかなと思うわけです。

ウィークデーはこうした話題にお付き合いいただく時間はきっとないと思いますので、日曜のコーヒーの時間に間に合うように、続けられればと思います。

どちらにしても答えは42なのですから、気楽に読んでいただければ!

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。