あなたを次のレベルに押し上げる「集中的訓練」の方法

scale.jpg

ただ「できる」だけではない、多くの有能な人と最高レベルで競い合うことのできるスキルを磨くにはどうすればいいのでしょう?

一人の「天才」的な才能を生み出すのに必要な時間は、マルコム・グラッドウェルが Outliers で紹介したように、10000 時間と言われています。

しかしこれは必要条件であって、十分条件であるとは限りません。普通にチェスを 10000 時間実践していれば、たいていの選手よりは強くなれます。しかしあとになればなるほど時間あたりに得られる経験値は少なくなりますし、強くなればなるほど自分のレベルを高めてくれる相手を探すのが難しくなるので、グランドマスターになりたいのなら、さらに絞り込んだ訓練が必要になります。

ゲームでたとえるなら、「スライムばかり倒していてもレベルは上がらない」と言い換えられるでしょうか。

ただ秀でているというところから、本当に「天才」というレベルにまで人を押し上げてくれる Deliberate Practice(集中的訓練、DP)という考え方について、Study Hacks で紹介されていましたので、意訳と再構成でお届けしたいと思います。

チェスのグランドマスターを作る集中的な訓練

DP という考え方は、「10000 時間を何に費やすか」という中身を問いかけたものです。楽器であれ、学問であれ、膨大な練習がスキルを生み出すことは知られていますが、本当に差を生み出しているのはどんな活動なのかを問いただしているのです。

たとえば 2005 年に発表された大勢のチェス選手を調査した認知心理学の論文によれば、グランドマスターに到達する選手は競技生活の最初の 10 年のうち、およそ 5000 時間を過去の試合の研究に費やしているということが報告されています。これは他の平均的なプロ選手の数倍で、この部分こそが差を生み出していることがわかります。

上記の研究を行った Anders Ericsson 氏は、自身のウェブサイトで、このような差を生み出す DP 的な訓練について次のような要素があると解説しています。

  1. パフォーマンスを向上するように設計されている: たとえばただプログラミングができるようになるのではなく、最も洗練されたコードを書くことが目的に含まれるように、活動自体がより高いレベルを目指します

  2. 何度も繰り返されます: 一回できれば終わりではなく、何度も同じレベルに到達することを要求します。

  3. フィードバック: 周囲からパフォーマンスに対する評価や批判を常にインプットします。

  4. 精神的に大きなプレッシャーを課します: たんなる習熟のための練習ではなく、集中力を高めるためにプレッシャーを伴うようにします。たとえばテニスなら単なる壁打ちではなく、試合という形で本人に心理的なプレッシャーに慣れさせる練習を徹底します。

  5. 難易度が高い: すでに知っていることを繰り返すのではなく、知らない領域を埋めるように難易度の高い学習を構築していきます。

  6. 道のり自体が報酬: ゴールに到達することが目的なのではなく、それを達成する過程自体をゴールにするような上手な目標設定をおこないます。たとえばコンクールで優勝することを目的にするだけでなく、その優勝までのプロセス自体が「実地での練習」であり報酬であるという位置づけをおこないます

スポーツや、チェスなどといった競技はこうした DP 的な訓練にとても馴染んでいます。というのは、パフォーマンスに関する尺度が決めやすいですし、勝ち負けがはっきりしていますし、難易度の設定を細かくチューニングできるからです。

しかし普通の仕事をしている私たちに、こうした DP 的なトレーニングを意識することはできるのでしょうか?

「普通」から、「特別」へ

ミュージシャンや、チェス選手と違って、普通の仕事では「パフォーマンス」や「勝ち負け」といった尺度が曖昧です。その分だけ、DP 的な訓練は普通の仕事では馴染まないと言える一方で、もしそうした手法を取り入れることができたなら、取り入れていない人に比べて数千時間といわず、もっと少ない時間で圧倒的な成長を遂げることができるというチャンスも含んでいます。

たとえば私の本業は研究者ですが、研究者としてのレベルを DP 的に向上させる活動を考えると次のようなことが考えられます。

  1. 最新の研究に通じる研究体勢: 研究者にとって一番大切なのは研究の一線を理解することです。「忙しくて論文も読めない」という研究者が多い中で、「最新の研究に目を通す」「知識を必要に応じて取りだせるシステムを作る」という活動に 10% でも時間を割いて常に繰り返している人は、それだけで「知」の利を得ています。

  2. 作業効率のカイゼン: 研究に利用するツールや手法に対して常に新しい情報をとりいれる習慣形成をしているひとは、学生時代に作ったツールを常に流用している人に比べて技術的な優位を常に持つことができます。

  3. 常に論文を書く: 機が熟したら書くのではなく、常に投稿に向けた原稿を進めていることによって「試験を受けている」状態をつねに維持することが、心理的なプレッシャーとなります。

すこし曖昧ですが、「研究におけるすべてのことができるようになる」という目標を作るよりも、「情報収集・作業効率・成果にたいする意識改革」というポイントを抑えてスケジュールされた訓練をおこなうことで、「論文」という成果への道を短くできるのではないかと思えます。

同じような活動は、プログラマーでも、ブログを書いている人でも、小説家でも設定して、繰り返し実践することができそうです。

「自分の仕事において何が『普通な人』と『卓抜した人』を分けているのだろうか?」「その『違い』を DP 的に繰り返しおこなうことができる活動にできないだろうか?」こうした問いかけによって、あるいは「次のレベル」に到達する扉の鍵が手に入るかもしれません。

このテーマは自分にとっても、とても重要なので繰り返し戻ってきたいと思います。また、自分でこうした DP 的な要素を意識してできることがないか探してみたいですね。まずは上の3つを生活に取り入れられないか考えないと…。

あなたの仕事において、「次のレベル」へ到達するためのポイントとなる活動はありますか?

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。