「一行だけの日記」がもたらす幸せ

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The Happiness Project で著者のこれまでの活動を振り返る「幸せをブーストする8つの戦略」というエントリーがあり、興味深く読んでいました。

著者の Gretchen Rubin さんは「目標をかかげる」「自分自身の価値観を定める」といったフランクリン・コヴィーの「7つの習慣」を読んだことある人ならなじみのある命題を、「幸せを得るため」という視点で再解釈して多くの読者の共感とコミュニティー作りに成功しているブロガーです。

しかし今回彼女の8つの戦略をゆっくりと読み返してみて一番心惹かれたのが「One-Sentence Journal」いわゆる「一行日記」の習慣です。

彼女のいう「1行の日記」はどういうものなのでしょう。そして、それはどうして幸せを導くのでしょうか。

時間を留める

彼女の1行日記は**「今日、この日にあったことをたった一つの文章で表現するとしたら何か」**ということをを紙の上に記録する」というだけの習慣です。1行だけなのは、短いので気負いを感じずに軽く書けて、かつエッセンスを抜き出せるからだということです。

その1行に書かれていることは単なる毎日の断片を記録だけでよく、「今日かわいい犬をみた」「いつもより1時間早く帰宅したらずいぶん夕暮れがきれいだった」「今日あの人と久しぶりに話した」程度の記録で十分なのです。

こうした一瞬の時間を1行の日記にして保存しておくことによって、1日1日を越えたもっとゆっくりとした長い時間を意識できるようにすることがこの日記の目的です。ずいぶん前に紹介した、彼女の1分間のショートムービーにそのエッセンスは込められています。

自分のつまらない例をもちだすと、数ヶ月前まで私は名古屋で毎日出勤していましたが4月1日という日を境に、その生活は引っ越し先の横浜での生活にとってかわりました。

いま思えば平凡な変わらない毎日だと思っていたこと、たとえば通勤途中の小高い丘からの景色、ちょっと足を伸ばしたところにある古戦場跡の田舎の風景、週末ごとのお気に入りの喫茶店でのコーヒーの味、それらが私の視点ではもう手の届かない場所にいってしまったのです。些細なこと? そうかもしれません。でも自分の人生が大きく変わったことは、こうした細部で初めて意識できるのです。

しかしこのような記憶と感覚とは、記録しておかなければいずれその存在自体を忘れていってしまいます。Gretchen さんの「1行日記」は怒濤のごとく流れ去ってゆく貴重な時間をここに留め置くための仕掛けなのです。

記録をしておけば、「ああ、そういえばああいう楽しいことがあったな」「あそこのコーヒーの味、もう一度味わいたいものだ」と私たちは自分たちの体験を何度でもかみしめられるようになります。なんでもない毎日の生活から思い出とゆっくりとした人生の変化を引き出せること、これが毎日を1行でいいので記録することの重要性なのです。

私にとっては、今も1冊の手帳がこの役割を帯びていて、ここだけは iPhone 3GS も取って代わることはできません。

どんなに調子が悪い日でも、その日を一行に凝縮して留めておくこと。

それが数年後、10 年、20 年後に思わぬつながり、感慨の源泉となり、あなたの宝物になってくれるかもしれません。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。