一歩進んだライフハックへ (4) 自分テンプレートを作成する

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「おはよう mehori くん。今日の君の任務は以下の通りだ。なおこのメッセージは自動的に消滅する。成功を祈る」

命令に素直に従うのが大嫌いな性格のくせに(権威をみるとどうしても茶化したくなるんですよね)、こういう命令書があったら楽だろうなと思うことはたびたびあります。

研究者の仕事は小説家のように自分で企画、製作、運営、会計、渉外、広告のすべてを行うので、「次はこれだよ」とか「まだ計画書ができていないのか!早くしろ!」いう具合にやるべきことが外から示されていると楽だろうなと思ったりするわけなのです。

人間は一度みたものを思い出したり、探したりするために実に無視できない時間を使っているといいますが、それと同じくらい見逃せないのが毎日同じ手順を行うために段取り作りです。前回の段取りをすっかり忘れているので、また一から考え直しているということがままあります。

来年の新しい習慣作りにむけた「一歩進んだライフハック」のシリーズ。第4回目は、繰り返し行う複雑な作業のために作る「自分テンプレート」の話です。

定番の流れをさがしてみる

原尻淳一さんの Planning Hacks! を読んでいて「成功ファイル」という手法が登場したときに、「ああ、これだ!」と思ったのをよく覚えています。以前私は大学事務の仕事に勤めていたときに、事務作業の時間が研究時間を圧迫しているのに悩んで、過去に実行した仕事はすべて個別のフォルダーに途中のメモも含めて残すようにしていました。

こうした経験がある程度たまると、今度はこうした過去ファイルのコピーで事務作業がほとんど通用するようになり、 格段に効率が上がったのでした。ひどいときには事務通知メールさえもが日付以外一言一句同じだったのですが、気づいた人はいないようでした。

さまざまな仕事には「段取り → 交渉 → 作業 → 再交渉 → しあげ」といったように、内容の差異を多少むりやり押し込んでも構わない程度の定番な流れがあるものですが、こうした一連の作業を「テンプレート」に従って実行すると、その都度「次にやるべきことは?」と考える必要がなくなって時間的にも、心理的にも楽になります。

その都度その都度仕事は違うようにみえますが、そこをあえて「これはあの仕事と同じ流れでできるかな」「これはあのときと同じ手順でいいだろう」という具合に、面を落としてあてはめてしまえば、経験上 80% はうまくゆく傾向にあるようです。

「バッチ処理できるものはないか?」

「いつも無意識に行っている定番のパターンはないか?」

こうした質問を通してこの一年の作業を振り返り、定番化できるパターンがいくつか見つかればしめたものです。

テンプレート、あるいは自分命令書の例

こうしたテンプレートは自分から思考と独創性を奪ってしまうと考える向きもあると思いますが、実際それは逆です。もう答えがわかっているものについては流れを作ってしまい、答えがまだわかっていない難しい作業のために指向と独創性をセーブしようというのが、自分テンプレートのいいところです。

新年に向けていくつか作っているテンプレートは以下の通りです。

  • 理想的な1日テンプレート:何時に起床して何時に眠るか。就労時間や毎日行うタスクのための必要時間もあらかじめ記入して、一日の「型」を作ります。

  • 理想的な朝のテンプレート:自分の経験では朝に上手に自分を乗せてしまえると、その後も楽に仕事が進む傾向にあるようです。朝にかならず行うステップを、それこそパソコンを立ち上げてペンを取り出すところまでの正確さで規定してしまいます。

  • 週間レビューのテンプレート:GTD や「7つの習慣」の週間レビューも、あらかじめ何から考え始めて、何を検討したら終わりという具合に順序を書いておくと、レビューを行うことが苦痛でなくなってきます。

  • 一日の終わりのテンプレート:これは朝のテンプレートと対になると思いますが、眠る前に明日の仕事の「命令書」を用意したり、忘れ物がないようにチェックしたりなど、眠りで行動が分断されるまえのチェック事項をしておくのは重要です。

ここに書いたのはごく一般的なものですが、自分の仕事に関連すると、「論文検索を行う場合のワークフロー」「論文査読テンプレート」「他人からの問い合わせを受けた場合の処理のワークフロー」「一人論文企画会議の流れ」など、変なワークフローがたくさんあります。ものによっては一人で考えすぎてどツボにはまらないように時間制限が加えてあるものもあります。

命令に従うのは必ずしも思い白いことばかりではありませんが、ある程度は流れが決まっている方が、カイゼンにむけた発想が活きてくるようでもあるようです。「どうすればいい?」と聞かれると答えがわからないのに、「ABC という手順でやろうと思う」と言われると「ADB の方がよくない?」という具合により良い答えの見通しが付きやすくなるのだそうです。

年末のゆっくりとした時間にぜひ、むだな段取りの繰り返しを節約するワークフローをいろいろと検討してみてください。

さて、これで「ブログの記事を書くテンプレート」に従って所定の手順(文章、推敲、画像)が問題なく完了しましたので楽しいところで申し訳ありませんが失礼します。えーと、次は何だ。「寝る前の歯磨きとうがいのワークフロー」か…。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。